2015年9月18日金曜日

感謝と共に&本紹介(木:文芸・詩)福永武彦『廃市・飛ぶ男』

こんばんは!くじらブックスです。
世間ではさまざまな出来事が変化し続ける毎日、いかがお過ごしでしょうか。
私も自分なりに考えつつ、コツコツ日々を重ねています。
昨夜は前職場の送別会を開いてもらい、たくさんの同僚に挨拶することができました。
今日はR大学の帰り、今後の仕入れ等について、BOOKSじのん・天久さんにご指導いただきました。
振り返ると改めて、いろんな方々にお世話になっているんだなあと感じます。
お世話になった分、懸命にそして楽しくやっていこうと、気持ちが高まります。
この感謝を忘れずやってまいりますので、今後ともよろしくお願いします。

今週は総合テーマ<食>で本をご紹介します。
※気になった方は、お近くの書店・図書館、または
※kujirabooks.okinawa@gmail.com までご連絡ください

木曜日は<文芸・詩>
ご紹介する本はこちらです。



詩人・小説家・仏語翻訳・古典現代語訳など、昭和を代表する文学者・福永武彦。
代表作『草の花』等の長編小説だけでなく、短編にも優れた作品が多い。
この短編集は、映画化された「廃市」、SF的な設定の「未来都市」、意識を言語化したような「飛ぶ男」等、いずれも読み応えある作品が集められている。
また個人的に何度読み返しても飽きない、「風花」という一編も収録されている。

「風花」は、一人病床につく男が風花(ちらちら舞う雪)の降る様を見て、人生のさまざまな記憶を振り返るというシンプルな内容。エピソード描写が細かく、場面場面が鮮明に、目の前に現れるように描かれる。
破たんした結婚生活、息子との触れ合い、若い頃の淡い恋など、鮮明であればあるほど、現実に戻ったときの淋しさが際立つ(病室には誰も来る気配がない)。
そして最後、無口な父との思い出で、福永作品では珍しくユニークな食の場面が出てくる。
父の友人・西田さんは、会うといつも欠けた前歯の間から曲芸のようにつるつると蕎麦を食べる。話の中で唯一と言っていいほどおかしいシーンだ。
その様子をじっと見ては愉しみ、初めて見る風花にはしゃぐ、幼い自分。それを見守る父。
現実に戻れば男は一人、誰もいない病室の中、最後の時を待っている。
淋しいはずだが、男は「それでもいい。人を愛し、人に愛された記憶を持ち、ただ自分ひとりの命をいとおしんで生きていくだろう」と清々しい気持ちに至る。
一つ一つの記憶の中、自分が愛し、愛されていたことを、思い出せたからだろう。

たとえどんな状況になったとしても、辿ってきた道と関わってきた人々を思い返せば、進んでいくことができる。
そんな静かな勇気とあたたかさを与えてくれる、心に残る一編だ。

0 件のコメント:

コメントを投稿